01.全ての始まりは





 バジルはいつもの様に、奈々の手伝い。
 本当に彼はこういう家事に慣れたと思う。
 気づけば奈々の隣にいるバジル。
 気づけば、ツナの隣で微笑んでいるバジル。
 自然と沢田家の中に入り込んでしまったその姿。
 ツナはそんな姿を見ながら、靴を履いた。
 そして、キチンを履くために軽くつま先を地面に叩く。

「どこか行くのか?」

 それに気づいたリボーンが、ふと顔を上げた。
 ツナは振り向かずに平然と答える。

「買い物」
「商店街か?」
「…コーヒーも買ってくるよ」
「そうだな」

 よくわかるようになったじゃないか。
 満足そうにリボーンは笑う。
 そんな笑い声を背後で聞いて、ツナはただため息をついた。
 そして、靴がちゃんとはけたことを確認すると一度足を止める。
 振り向いてみた先は、家の中。
 バジルはきっと奈々の手伝い。
 たまには、一人で買い物も良いだろう。

「何かってくるんだ?」
「俺はノートだけだよ」

 だから、すぐに帰ってくる。

「バジル君に言わなくても、大丈夫だよね?」

 ふと浮かんだ心配を口に出したツナ。
 そんな問いに、リボーンは楽しそうに笑った。
 それはまるで全てを見透かしているようで。
 どうも気に食わないのだけれど。 
 とりあえず、大丈夫だと信じよう。
 そう頷いて外出したツナの背を、リボーンは不敵な笑みで送った。
 待たなくても来る足音の存在を、知っていたからだ。
 待ったのは本当に数秒のこと。
 これでは待ったなんていわない。
 やはり、待たなくても彼は来た。

「リボーンさん、沢田殿は?」

 パタパタとスリッパを鳴らして駆け寄ってきたバジル。
 エプロンをしているその姿は、まるで奈々のようである。
 つまり、一家の母。
 どこか似合うようなその姿にリボーンは顔を上げた。
 そして、楽しそうに思いながら。
 それを表情に出さずに答えた。

「さぁな」
「どこかにお出かけでしょうか?」
「出かけるならお前に言うだろ」
「そんな…」

 そこまで、自分はツナに思われている存在ではない。
 なんて少し光栄そうに。
 恥じらいながら答えるバジル。
 そんなバジルにリボーンは呆れた。
 彼は一体どこまでツナを特別視しているのだろう。
 獄寺もそうだが、彼らがツナを慕う姿はマフィアでも珍しいものである。
 感情を表に出すから、尚更。
 リボーンはふとバジルへと顔を向けた。

「なら、家の中にいるのかもな」

 心配なら、捜せば良い。
 そういうリボーンに、バジルは苦笑した。

「心配はしていますけれど、していないんです」

 なんて笑顔で笑いながら。
 結局バジルはまたスリッパをパタパタと鳴らせてどこかへと立ち去る。
 その音は止まない。
 台所に立ち止まっているわけではない。
 家中を詮索するような。
 そんな足音が家に響く。
 慌しいようで。
 それでも、極力足音を抑えている。
 流石バジルだ。
 こんな些細な気遣いはツナには出来ない。
 そう思ったとき、ふとリボーンは楽しそうに口角を上げていた。

「ただいまー」

 なんて、良いタイミングというべきか悪いタイミングというべきか。
 ツナが帰宅した。
 その声に足音が玄関へと駆けつけてくる。
 先ほど見たように、エプロン姿のバジル。
 パタパタと、やはりスリッパは鳴っている。
 バジルは一目散にツナの元へと向かうと、その姿に微笑んだ。

「おかえりなさい、沢田殿」
「あ、うん」

 その笑顔に躊躇し。
 ツナは一瞬口ごもる。
 そして、ようやく顔を上げた。

「あの、心配した?」

 何も言わずに外出したから。
 バジルに何かを言わないと外出できないなんて。
 そんなことは無いけれど。
 そう、決して無いのだ。
 バジルは人を縛り付けるタイプではない。
 バジルは、自然と人を集めるようなタイプなのだ。
 優しい笑顔。
 こうして駆けつけてくれるなんて、きっと帰りを待っていてくれたからに違いない。
 だからこそツナは少しの罪悪感を感じていた。
 バジルがどう反応を返すか不安そうなツナに、バジルは微笑んだ。

「心配しました」

 とても。
 その言葉に胸に生まれる少しの痛み。
 どうしよう、とツナが顔を下げる前にバジルは微笑んだ。

「でも、心配していませんでした」
「え?」
「信じていましたから」

 沢田殿を。
 バジルは言う。
 とても綺麗な響きに、ツナは照れくさそうに笑った。
 そんなツナの姿にどこか嬉しそうに微笑むバジル。
 二人の姿を目の当たりにし、リボーンは頷いた。

「決めたぞ」
「え?」
「何をですか?リボーンさん」

 首を傾げるツナとバジル。
 その瞳に、リボーンは不敵に笑った。

「お前ら、結婚しろ」

 サラリといわれた言葉に固まる二人。
 リボーンは尚も言葉を続けた。

「結婚というより、同棲だな」

 お前らは、お互いに学ぶ所が多すぎる。
 そういうリボーンの言葉は二人に届いていたのかどうなのか。

「はぁ?!」
「え?!」

 ツナとバジルは同時にそう驚き、お互いに眼をぱちくりとさせた。
 同棲生活のスタートらしい。