02.夫婦みたいな同棲生活





 例えば、いつも隣にいたり。
 ふとしたときに、目が合ったり。
 そんなことなのだろうか。
 いや、それは何かが違う気がする。
 ツナは首を傾げた。

「…そもそも、なんでこうなったんだっけ」

 目の前に並べられた朝食にツナは小さくため息をつく。
 いつの間にか手配されてしまった新居。
 まぁ、並盛中学校には近いのでたいした文句を言う気はないが。
 第一、つっこみどころは他にあるのだ。

「沢田殿、どうかしましたか?」

 頬杖をつき、どこか放心するツナの姿にバジルは首を傾げた。
 エプロン姿のバジル。
 本当にどこぞの誰かの台詞のようであるが。
 これでは、結婚したようである。
 まさしく、新婚ほやほや。
 こんなことをけし掛けたどこぞの誰かは同棲だと言っていたが。

「どこぞの誰かって、誰だろうな」
「そりゃ勿論…」

 リボーンのことである。
 そう答えようとしていた口を、ツナは慌ててふさいだ。
 そして、はっと声のした方向を見る。
 ツナの隣。
 リボーンはバジルが用意したコーヒーを片手にくつろいでいた。

「何でここに居るんだよ?!」
「この部屋の持ち主が俺だからだろ」
「…え」
「用意したのはディーノだが、名義は俺になってるんだよ」

 知らなかったのか。
 呆れるように、どこか楽しそうにリボーンは笑った。

「…じゃあ、鍵かけても意味ないじゃん」

 ツナは脱力した。
 道理であっさりとリボーンが部屋に入って来れたわけである。
 初めから何も邪魔するものはなかったのだ。
 盛大なため息をつくツナに苦笑し、バジルは手馴れた様子で食事を並べていった。

「リボーンさんも朝食を召し上がりますか?」
「俺はママンのところで食べてきたから…そうだな、おかわり貰えるか?」

 空になったカップを差し出すリボーンに、バジルは微笑んだ。

「はい」

 そして、二人へと背を向ける。
 どこか違和感を感じないその姿。
 可愛らしいエプロン姿も。
 台所にたつ姿も。
 甲斐甲斐しく働く姿も。
 何も違和感を感じさせない。
 バジルが普段から沢田家の手伝いをしていたからだろうか。
 自然と、見慣れてしまったのだろうか。
 ふとそう考えるツナに、リボーンは視線を上げる。

「随分と、落ち着いてるんだな」
「え?」
「いや」

 慌てふためくとまでは言わないが、ツナの順応性には内心驚いた。
 リボーンは言葉を言わず、視線を下げる。
 それを読み取ったのかどうかはわからないが、不意にツナも口を開いた。

「見慣れてるんだよね」

 きっと。
 ツナは苦笑する。
 どこか呆れたように。
 愛しそうに。
 そして、ため息を一つついた。

「バジル君の姿に違和感感じないのって、可笑しいのかな」
「さぁな」

 本当のところ、リボーンも違和感を感じていないのだから。
 リボーンはあえて何も言わず、バジルへと視線を向けた。
 バジルは丁度、コーヒーを入れ終えたところのようであった。

「リボーンさん」
「ああ」

 渡されたカップを手に取り、リボーンは一口飲む。
 その姿にバジルはどこかほっと息をつくと、次いでツナへと視線を向けた。

「沢田殿」
「何?」
「あの、そろそろお時間が…」

 どこか困ったように時計を差し出すバジル。
 そこに映し出されている時刻は、始業時間までの時間がないことを示していた。
 そういえば、毎朝迎えに来てくれている獄寺はこのことを知らないのだ。
 つまり、バジルとツナが同棲をしていると言うことだが。
 知らなければ、獄寺が迎えに来るはずもない。

「やばい!」

 ツナは一瞬にして事態を飲み込むと、慌てて朝食を食べた。
 そして、お急ぎで鞄を手に玄関へと向かう。
 リボーンは毎朝変わらないような姿に呆れ。
 バジルはそんなツナの後についていった。

「沢田殿!忘れ物です!」

 靴を履くために座り込んでいたツナへと駆け寄るバジル。
 その手には、小さな包みがあって。
 可愛らしい袋に、ツナは立ち上がった。

「あの、それ…」
「お弁当です」
「弁当?」
「はい。拙者が作ったものなので、沢田殿のお口に合うかはわかりませんが…」

 受け取ってもらえると嬉しい。
 はにかむように笑うバジルに、ツナは顔を赤らめた。
 そして、ゆっくりとそのお弁当を受け取った。

「ありがとう」

 とても嬉しそうに。
 頬をうっすらと赤く染めているツナの姿にバジルも笑った。

「いってらっしゃい、沢田殿」
「うん。いってきます」

 ツナも笑う。
 そして、ゆっくりとバジルに背を向けると出て行った。
 閉まるドアの隙間から見えた一瞬のツナの横顔。
 それはとても嬉しそうなもので。
 バジルは気づくと、思わず微笑んだ。
 そんな二人の姿に、リボーンは小さく肩を落とした。