03.昼下がりの事情





 睨みあう二つの視線の間。
 ツナは黙々と昼食を食べていた。
 学校に来てから休まるときといえば、もしかしたら授業中なのかもしれない。
 そんなことを思いながら、甘い玉子焼きを口に入れる。
 ほんわかとした優しさに、思わず安堵の息が漏れた。
 流石バジルである。
 彼は料理が上手い。

「それ、いつものじゃないね」

 目ざとく見つけた雲雀が口を開いた。
 先ほどまでツナを挟んで睨みあっていた人物でもある。
 不意に視線を向けられ、ツナは顔を上げた。

「同じじゃないですか?」
「違うよ」
「え?」
「飾り付けが違う」

 雲雀の言葉に唖然としてしまうツナ。
 そんなまさか。
 だが、よく見てみれば奈々が作るものよりもどこか和風染みていた。
 二人の光景を見ていたもう一人。
 先ほどまで雲雀と睨みあっていた人物も口を開いた。

「誰が作ったんですか?」

 骸の笑顔に、ツナはゆっくりと視線を向けた。

「バジル君、ですけど…」
「ああ、あの子」
「あれですか」

 雲雀と骸は納得すると、弁当へときつい視線を向けた。
 二人ともバジルがツナの弁当を作っていることは知っていた。 
 バジルがツナの家に居候していると知ったのは、随分前であるのだから。
 居候をはじめてから、バジルはずっと奈々の手伝いをしていた。
 もちろん、弁当作りを手伝っていることも知っていた。
 だが、今日は何かが違う。
 何が違うのか。
 首をかしげはじめた二人にツナは早々と弁当箱を引いた。
 そして、二人から少し離れるように昼食を続ける。
 何時の間にか、二人と一緒にすごすようになってしまった昼食。
 獄寺や山本はと問われれば、何というのだろうか。
 簡単に言えば、争奪戦のようなものなのかもしれない。
 昨日は、獄寺や山本と一緒に昼食を取った。
 だが、今日は雲雀に捕まり、何故か骸も一緒にいる。
 そんな現状。
 ツナはすっかり綺麗にバジル手作りのお弁当を平らげ、顔を上げた。

「ところで、昼食はどうしたんですか?」
「僕は昼休み前に食べ終えてたよ」
「綱吉君を見ていればおなかが一杯です」

 そうですか。
 と呆れるように笑うツナ。
 やはり自分がここにいる理由が見つからない。
 そういうようなツナの手元を見て、骸は首をかしげた。

「綱吉君、そんなにお弁当美味しかったんですか?」
「え?」
「だって、いつも残しそうな勢いでしょう」

 小食なのか、何なのか。
 もしかしたら、単に邪魔が入って食べられないのかもしれないが。
 そう笑う骸にツナは首をかしげ、やがて納得すると小さく笑った。

「とっても、美味しかったんです」

 だから。
 微笑むツナはどこか幸せそうで。
 そんな笑顔に不信感を抱くのが二人なのだ。
 雲雀はあからさまに眉を寄せた。

「何かあったでしょ?」

 そして、多分それは自分にとっては気に入らないこと。
 雲雀の言葉に笑顔のまま固まるツナ。
 その光景に、骸も笑顔を向けた。

「綱吉君?…クフフ」

 そんな笑い方しないでください。
 そう言いたいツナだけれど。
 固まるツナをよそ目に、二人はどこか確信を持った瞳をしていて。
 逃げる道がないツナは、弁当を握り締め視線をそらす。
 骸はそんなツナを見て、仕方がないと胸ポケットから写真を出した。

「本当は、綱吉君の口から真実を聞きたかったんですけれど…」
「それ何?」

 ツナの疑問を変わりに言った雲雀に、骸はチラリと視線を向けた。

「同棲風景ですよ」

 そこに映るのは、見慣れたバジルの笑顔。
 そして、バジルの笑顔に微笑むツナがいて。
 ツナは慌ててその写真を骸の手からとろうとした。
 だが、その前に骸が写真をポケットにしまってしまった。

「骸さん!」
「クフフ」
「綱吉…」
「何で俺を睨むんですか…!」

 二人からの視線にツナは後ずさりをする。
 写真をとり、ある種のストーカーであるのは骸ではないか。
 そう思うのも山々だが、今の二人にはそんな言葉は通用しないだろう。
 直感した。

「あの、これはある意味不可抗力で…」
「でも、嫌そうじゃないよね」
「寧ろ幸せそうに見えますよ」

 何も言い返せないツナはただ冷や汗をかく。
 ツナを追い詰めながら、骸はまたポケットからあるものをとりだした。
 それは、綺麗に輝く銀色の鍵。
 まさか。
 と、ツナが固まる中、骸は笑顔で言った。

「実は、隣に引っ越したんですよ」
「待ってください!」
「今頃荷物が運び込まれてると思います」

 クフフと骸は笑い。
 ツナはこの現状が嘘だと頭の中で繰り返し唱えた。 
 だが、どうやら現実らしい。

「僕も草壁に言って綱吉の隣に部屋取らせよう」

 なんて雲雀が呟いたのも。